ファラロンプレート

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
image
約1億8000万年前のパンサラッサ海の地図。ファラロンプレートの位置が示されている

ファラロンプレート(英:Farallon plate)は、古代の海洋プレートである。このプレートは、パンサラッサを構成する3つの主要プレート(イザナギプレート、フェニックスプレート)の一つであり、これらは三重会合点で接していた。ファラロンプレートは、パンゲアの分裂後、前期ジュラ紀に三重会合点の中心に太平洋プレートが形成されたのをきっかけに、北アメリカプレート(当時は現在のユタ州付近)西岸の下に沈み込み始めた。この名称は、カリフォルニア州サンフランシスコ西方にあるファラロン諸島に由来する。

image
ファラロンプレートから分裂したファンデフカ(エクスプローラー、ゴルダを含む)、ココス(リベラを含む)各プレート、ならびにサンアンドレアス断層の形成図

時間の経過とともに、ファラロンプレートの中央部分は北アメリカプレート南西部の下に沈み込んだ。現在残されているファラロンプレートの断片は、エクスプローラープレート、ゴルダプレート、ファンデフカプレートであり、これらは北アメリカプレートの北部の下に沈み込んでいる。また、ココスプレート中央アメリカの下へ、ナスカプレートは南アメリカプレートの下に沈み込んでいる。

ファラロンプレートは、かつて他の遠方プレートからリフトによって分離した古い島弧やさまざまな大陸地殻の断片を運搬した。これら他所から来た断片はテレーン(または「外来テレーン」)と呼ばれる。ファラロンプレートの沈み込みの過程で、これらの島弧やテレーンは北アメリカプレートに付加された。北アメリカ西部の多くは、これらの付加されたテレーンによって構成されている。

プレートのトモグラフィ画像

]

ファラロンプレートのような古代のプレートは、地球内部深くを観察できる手法によって研究される。地震波トモグラフィによる詳細な画像によって、沈み込んだプレートの残骸に関する理解が深まりつつある。北アメリカ西岸は複雑な構造を持つため、解明には多大な研究が必要とされてきた。

image
北アメリカ下に沈み込んだファラロンプレートの地震波トモグラフィ。地震波速度は温度によって変化する

このプレートは、まだ「冷たい」状態であるため、地震波トモグラフィで検出可能である。すなわち、マントルとの間で熱平衡に達していないため、地震波が通過する速度に異常が生じ、それが画像化される。

浅角沈み込みと変形

]

複数の研究によって、ファラロンプレートは「平坦スラブ沈み込み(flat-slab subduction)」と呼ばれる、沈み込み角が浅い現象を示したことが明らかになっている。 この現象は、ロッキー山脈をはじめとする北アメリカ内陸部における造山活動(造山運動)の原因とされ、これらの山脈が収束型境界から遠く離れて形成されたことを説明する。

image
地球深部におけるファラロンプレートの残骸を示したNASAのソフトウェアモデル

このような平坦な沈み込みにより、スラブは変形を受けた。トモグラフィには、スラブ本体よりも厚い速度異常の領域が現れており、沈み込み中にスラブが屈曲・変形したことを示唆している。 つまり、本来はより深い下部マントルに達しているはずのスラブが、変形によって上部マントルに留まっている可能性がある。

image
カリフォルニア州における付加テレーンの地質図の一例

この浅い沈み込み角と変形を説明するため、複数の仮説が提唱されている。一部の研究では、北アメリカプレートの高速な移動がスラブを平坦化させたとしている(スラブ・ロールバック)。 また、海台の存在などによりスラブが浮力を持つことも要因の一つとされる。 一部の海台は北アメリカに付加されたと考えられている。

スラブの変形は、破断を伴う場合もあり、ファラロンプレートの一部が切断されて複数のスラブ断片となった可能性がある。これはトモグラフィによっても支持されており、ロッキー山脈のような内陸部のララミー変動の形成を補足的に説明する。

ファラロンプレート沈み込みに関する解釈

]

2013年の研究では、ファラロンプレートを北部ファラロン、アンガユチャム、メスカレラ、南部ファラロンの各セグメントに分割する新たなモデルが提唱された。これにより、過去の沈み込み史や付加テレーンの複雑性の説明が進んだ。

このモデルによれば、北アメリカ大陸は複数の沈み込み帯とマイクロコンチネント(インドネシア諸島に類似)を乗り越えてきた。ファラロンプレートは西方へと移動し、以下の地質事象を引き起こしたとされる。

image
現在のカスカディア沈み込み帯。ファンデフカプレート(ファラロンプレートの残骸)が沈み込んでいる
  • 約1億6500万〜1億5500万年前:メスカレラ突起が沈み込み始め、ロッキー山脈の造山運動が開始。
  • 約1億2500万年前:北アメリカプレートが島弧と衝突し、セビア造山運動が発生。
  • 約1億2400万〜9000万年前:メスカレラ突起の沈み込みとともに太平洋岸北西部にオミネカ火成ベルトが形成。
  • 約8500万年前:モクテスマ火山地帯におけるソノラ火山活動。
  • 約8500万〜5500万年前:浮力のあるテレーンが付加され、ララミー変動が形成。
  • 約7200万〜6900万年前:カーマックス火山群の活動がカナダで発生。
  • 約5500万〜5000万年前:シレツィアおよびパシフィックリムのテレーンが付加。
  • 約5500万〜5000万年前:コースト山脈島弧の火山活動が終息。

最後の群島であるシレツィア群島がテレーンとして沈み込むと、沈み込み帯は西へと移動し、これまで海洋プレート同士の沈み込み帯だった場所が北アメリカ大陸の縁辺に近づき、現在のカスケード沈み込み帯となった。このとき、スラブウィンドウも形成された。

ララミー変動の形成には、スラブからの脱水による地殻の隆起や火成活動も影響したという説もある。

関連項目

]
  • イザナギプレート
  • クラプレート
  • サンアンドレアス断層

脚注

]
  1. ^ Lonsdale, Peter (2005-08-01). “Creation of the Cocos and Nazca plates by fission of the Farallon plate”. Tectonophysics 404 (3–4): 237–264. doi:10.1016/j.tecto.2005.05.011. 
  2. ^ a b Goes 2013
  3. ^ a b c d e f Schmid, Christian; Goes, Saskia; van der Lee, Suzan; Giardini, Domenico (2002-11-30). Fate of the Cenozoic Farallon slab.... 
  4. ^ a b c van der Lee, Suzan; Nolet, Guust (March 1997). Seismic image of the subducted trailing fragments.... 
  5. ^ Currie, Claire A.; Copeland, Peter (2022-01-25). “Numerical models of Farallon plate subduction: Creating and removing a flat slab”. Geosphere. doi:10.1130/GES02393.1. ISSN 1553-040X. https://pubs.geoscienceworld.org/geosphere/article/doi/10.1130/GES02393.1/611097/Numerical-models-of-Farallon-plate-subduction. 
  6. ^ a b Humphreys, Eugene; Hessler, Erin; Dueker, Kenneth; Farmer, G. Lang; Erslev, Eric; Atwater, Tanya (July 2003). “How Laramide-Age Hydration of North American Lithosphere by the Farallon Slab Controlled Subsequent Activity in the Western United States”. International Geology Review 45 (7): 575–595. doi:10.2747/0020-6814.45.7.575. ISSN 0020-6814. https://www.tandfonline.com/doi/full/10.2747/0020-6814.45.7.575. 
  7. ^ a b c d Schmandt, B.; Humphreys, E. (2011-02-01). “Seismically imaged relict slab from the 55 Ma Siletzia accretion to the northwest United States”. Geology 39 (2): 175–178. doi:10.1130/G31558.1. ISSN 0091-7613. https://pubs.geoscienceworld.org/geology/article/39/2/175-178/130527. 
  8. ^ a b Kerr, Andrew C. (2015), Harff, Jan; Meschede, Martin; Petersen, Sven et al., eds., “Oceanic Plateaus”, Encyclopedia of Marine Geosciences (Dordrecht: Springer Netherlands): pp. 1–15, doi:10.1007/978-94-007-6644-0_21-1, ISBN 978-94-007-6644-0, https://link.springer.com/10.1007/978-94-007-6644-0_21-1 2024年10月18日閲覧。 
  9. ^ Hawley, William B.; Allen, Richard M. (2019-07-16). The Fragmented Death of the Farallon Plate.... 
  10. ^ a b c Sigloch & Mihalynuk 2013.
  11. ^ Goes 2013; Sigloch & Mihalynuk 2013.

 

外部リンク

]
  • USGS Professional Paper 1515: images of Farallon plate
  • Demise of the Farallon plate Beneath North America – California Institute of Technology
  • The Farallon plate Archived 2020-10-29 at the Wayback Machine. – Goddard Space Flight Center

ウィキペディア, ウィキ, 本, 書籍, 図書館, 記事, 読む, ダウンロード, 無料, 無料ダウンロード, 携帯電話, スマートフォン, Android, iOS, Apple, PC, ウェブ, コンピュータ, ファラロンプレート に関する情報, ファラロンプレート とは何ですか? ファラロンプレート とはどういう意味ですか?

0 返信

返信を残す

ディスカッションに参加しますか?
自由に投稿してください!

返信を書く

必須項目は*で表示されています *