アムピトリーテー
アムピトリーテー(古希: Ἀμφιτρίτη, Amphitrītē)は、ギリシア神話の海神ポセイドーンの妃で海の女王である。名前の意味は「大地を取り巻く第三のもの」、即ち海をあらわす。美術作品では、息子のトリートーンたちに引かれた戦車にポセイドーンと共に乗った姿で表され、夫と同じく三叉の鉾を手にする場合もあった。
アムピトリーテー Ἀμφιτρίτη | |
---|---|
海の女神 海の女王 | |
![]() マリウス・ジャン・アントナン・メルシエの作品『アンフィトリテ』。1889年-1900年 ウォルターズ美術館所蔵 | |
住処 | 海 |
シンボル | 三叉戟 |
配偶神 | ポセイドーン |
親 | ネーレウス, ドーリス |
兄弟 | ガラテイア, テティス, プサマテー |
子供 | トリートーン, ロデー, ベンテシキューメー |
ローマ神話 | サラーキア |

ローマ神話の海水の女神サラーキアと同一視される。
アンピトリーテー、アンフィトリーテー、アムフィトリーテー、長母音を省略してアムピトリテ、アンピトリテ、アンフィトリテ、アムフィトリテとも表記される。
概要
アムピトリーテーは、ネーレウスがオーケアノスの娘ドーリスとの間にもうけた50人の娘ネーレーイデスの1人で、ポセイドーンとの間に、トリートーン、ロデー、ベンテシキューメーを生んだ。子供のうち、トリートーンは上半身が人間、下半身が魚(またはイルカ、蛇)の姿をした海神である。ロデーは太陽神ヘーリオスの妻となった。ベンテシキューメーはエウモルポスを育てたといわれる。
また、ロバート・グレーヴスはアムピトリーテーの三人の子供というのは、彼女自身の三面相を示すもので、トリートーンは幸運の新月、ロデーは刈入れのころの満月、ベンテシキューメーは危険な旧月を現しているとする説を述べている。
神話
ホメーロスとヘーシオドス
アムピトリーテーは海の女性的化身である。ホメーロスの『オデュッセイア』によると、青黒い瞳をしており、大波を起こすとされ、海の巨大な怪魚や海獣を数知れず飼っているとされている。しかしホメーロスにおいては十分な擬人化が進んでおらず、単に海を指すと思われる個所もある。ヘーシオドスの『神統記』では、アムピトリーテーは同じネーレーイデスのキューモドケー、キューマトレーゲーとともに、荒れ狂う風を鎮めることができ、またポセイドーンとの間にトリートーンを生んだと詠われている。『ホメーロス風讃歌』の「アポローン讃歌」によると、レートーがデーロス島でアルテミスとアポローンを出産したとき、ディオーネー、レアー、テミスをはじめとする多くの女神たちとともに立ち会った。
ポセイドーンとの結婚

前490~500年頃のキュリクス。陶工はエウプロニオス、画家はオネーシモス。ルーブル美術館所蔵。
後世の神話ではアムピトリーテーとポセイドーンの結婚の物語が語られている。それによればアムピトリーテーは姉妹たちとともにナクソス島で踊っているときにポセイドーンによってさらわれた。
エラトステネースによると、アムピトリーテーははじめポセイドーンを嫌って海の西端のアトラースのもとに逃げ、彼女の姉妹たちによって匿われた。ポセイドーンがイルカにアムピトリーテーを探させると、1頭のイルカが大西洋の島にアムピトリーテーがいるのを発見し、説得してポセイドーンのところに連れて行った。その結果ポセイドーンはアムピトリーテーと結婚することができ、この功績によってイルカは天に配置され、いるか座となった。
オッピアーノスもエラトステネースとほぼ同じ神話を述べている。それによるとアムピトリーテーが隠れたのはオーケアノスの宮殿であった。そしてポセイドーンはイルカから隠れ場所を教わると、すぐさま拒絶するアムピトリーテーを奪い、結婚したという。
ポセイドーンはもともと大地の神だったが、アムピトリーテーとの結婚によって海も司るようになったともいわれる。アムピトリーテーは、気のおけない妻で、夫の度々の不実を辛抱強く我慢した。
テーセウス神話
アムピトリーテーはテーセウス神話にも登場する。アテーナイの英雄テーセウスがミーノータウロスの生贄としてクレーテー島に連れてこられたとき、ミーノース王は彼がポセイドーンの子であることを信じなかった。ミーノースは自分の指輪をはずして海に投げ入れ、本当にポセイドーンの子ならば指輪を取ってくることができるだろう、と言った。そこでテーセウスが海に潜ると、イルカが彼をポセイドーンの王宮に運んだ。やって来たテーセウスに、アムピトリーテーはミーノースの指輪と、真紅の外套、花冠を授けた。
ギャラリー

- ヤン・ホッサールト『ネプチューンとアンフィトリテ』(1516年)絵画館所蔵
- パリス・ボルドーネ『ネプチューンとアンフィトリテ』(1560年頃)個人蔵
- ハンス・ロッテンハンマー『ネプチューンとアンフィトリテ』(1600年頃)エルミタージュ美術館所蔵
- ニコラ・プッサン『ネプチューンとアンフィトリテの勝利』(1635-1636年)フィラデルフィア美術館所蔵
- セバスティアーノ・リッチ『ネプチューンとアンフィトリテ』(1691年-1694年頃)ティッセン=ボルネミッサ美術館所蔵
- シャルル=ジョセフ・ナトワール『アンフィトリテの勝利』(1730年)
ワルシャワ国立美術館所蔵
脚注
注釈
- ^ パウサニアース(1巻17・3)によると、ミーノースの指輪と黄金の冠を授けたことになっている。
出典
- ^ 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』29頁。
- ^ a b 松原國師『西洋古典学事典』京都大学学術出版会、2010年、226,849頁。
- ^ a b フェリックス・ギラン『ギリシア神話』151頁。
- ^ 呉茂一『ギリシア神話』新潮社、1969年。ISBN 9784103071013。207頁。
- ^ 松田壮六『ホメーロス辞典』国書刊行会、1994年。ISBN 9784336035684。23頁。
- ^ マイケル・グラント;ジョン・ヘイゼル 著、西田実 ほか訳『ギリシア・ローマ神話事典』大修館書店、1988年。ISBN 978446901221770頁。 。
- ^ 水谷智洋、平凡社、改訂新版 世界大百科事典『ポセイドン』 - コトバンク
- ^ 『神統記』243行。
- ^ アポロドーロス、1巻2・7。
- ^ a b 『神統記』930行-933行。
- ^ a b アポロドーロス、1巻4・6。
- ^ アポロドーロス、3巻15・4。
- ^ ロバート・グレーヴス『ギリシア神話 上巻』紀伊国屋書店、1973年、16章1。
- ^ フェリックス・ギラン『ギリシア神話』150頁。
- ^ 『オデュッセイア』12巻60。
- ^ 『オデュッセイア』5巻422、12巻97。
- ^ 『オデュッセイア』3巻91。
- ^ 『神統記』252行-254行。
- ^ 『ホメーロス風讃歌』第3歌「アポローン讃歌」94。
- ^ 『オデュッセイア』3巻91に対する古註(カール・ケレーニイ『ギリシアの神話 神々の時代』p.232)。
- ^ エラトステネス、31話。
- ^ オッピアノス『漁夫訓』1巻386行-393行。
- ^ 『ギリシア・ローマ神話事典』523頁。
- ^ 『ギリシアの神話 神々の時代』p.224、231、232。
- ^ バッキュリデース、第17歌。
参考文献
- アラトス / ニカンドロス / オッピアノス『ギリシア教訓叙事詩集』伊藤照夫訳、京都大学学術出版会(2007年)
- アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
- 『ギリシア合唱抒情詩集 アルクマン他』丹下和彦訳、京都大学学術出版会(2002年)
- パウサニアス『ギリシア記』飯尾都人訳、龍溪書舎(1991年)
- ヘシオドス『神統記』廣川洋一訳、岩波文庫(1984年)
- ホメロス『オデュッセイア(上・下)』松平千秋訳、岩波文庫(1994年)
- ホメーロス『ホメーロスの諸神讃歌』沓掛良彦訳、ちくま学芸文庫(2004年)
- 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店(1960年)
- カール・ケレーニイ『ギリシアの神話 神々の時代』植田兼義訳、中公文庫(1985年)
- フェリックス・ギラン『ギリシア神話』中島健訳、青土社(1991年)
関連項目
- アンフィトリテ (小惑星)
外部リンク
- エラトステネスの星座物語 31. いるか座
ウィキペディア, ウィキ, 本, 書籍, 図書館, 記事, 読む, ダウンロード, 無料, 無料ダウンロード, 携帯電話, スマートフォン, Android, iOS, Apple, PC, ウェブ, コンピュータ, アムピトリーテー に関する情報, アムピトリーテー とは何ですか? アムピトリーテー とはどういう意味ですか?
返信を残す
ディスカッションに参加しますか?自由に投稿してください!