日本国憲法第29条
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(にほんこく(にっぽんこく)けんぽう だい29じょう)は、日本国憲法の第3章にある条文で、財産権について規定している。
条文
]日本国憲法 - e-Gov法令検索
- 第二十九条
- 財産権は、これを侵してはならない。
- 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
- 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
沿革
]大日本帝国憲法
]東京法律研究会 p.8
- 第二十七條
- 日本臣民ハ其ノ所有權ヲ侵サルヽコトナシ
- 公益ノ爲必要ナル處分ハ法律ノ定ムル所ニ依ル
GHQ草案
]「GHQ草案」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。
日本語
]
- 第二十七条
- 財産ヲ所有スル権利ハ不可侵ナリ然レトモ財産権ハ公共ノ福祉ニ従ヒ法律ニ依リ定義セラルヘシ
- 第二十八条
- 土地及一切ノ天然資源ノ究極的所有権ハ人民ノ集団的代表者トシテノ国家ニ帰属ス
- 国家ハ土地又ハ其ノ他ノ天然資源ヲ其ノ保存、開発、利用又ハ管理ヲ確保又ハ改善スル為ニ公正ナル補償ヲ払ヒテ収用スルコトヲ得
- 第二十九条
- 財産ヲ所有スル者ハ義務ヲ負フ其ノ使用ハ公共ノ利益ノ為タルヘシ国家ハ公正ナル補償ヲ払ヒテ私有財産ヲ公共ノ利益ノ為ニ収用スルコトヲ得
英語
] - Article XXVII.
- The right to own property is inviolable, but property rights shall be defined by law, in conformity with the public welfare.
- Article XXVIII.
- The ultimate fee to the land and to all natural resources reposes in the State as the collective representative of the people. Land and other natural resources are subject to the right of the State to take them, upon just compensation therefor, for the purpose of securing and promoting the conservation, development, utilization and control thereof.
- Article XXIX.
- Ownership of property imposes obligations. Its use shall be in the public good. Private property may be taken by the State for public use upon just compensation therefor.
憲法改正草案要綱
]「憲法改正草案要綱」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。
- 第二十七
- 財産権ハ侵サルルコトナキコト
- 財産権ノ内容ハ法律ヲ以テ之ヲ定メ公共ノ福祉ニ適応セシムルコト
- 私有財産ハ正当ナル補償ヲ以テ之ヲ公共ノ用ニ供セラルルコトアルベキコト
憲法改正草案
]「憲法改正草案」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。
- 第二十七条
- 財産権は、これを侵してはならない。
- 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
- 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
財産権保障の沿革(概要)
近代以降、財産権の保障のあり方は、資本主義の発展とともに大きく変化してきた。18世紀の市民革命期には、財産権は個人の自由を支える基本的人権として位置づけられ、フランス人権宣言(1789年)はこれを「神聖かつ不可侵の権利」として保障した。しかし、19世紀後半になると資本主義の進展により貧富の格差が拡大し、国家による社会的調整が求められるようになった。この過程で、財産権は単なる個人の権利ではなく、公共の福祉との調和の下に制約を受ける「社会的拘束性」を持つ権利と理解されるようになった。
ワイマール憲法(1919年)153条はこの考え方を明確に示し、「財産権は義務を伴い、その行使は公共の福祉に資すべきである」と規定した。日本国憲法第29条もその影響を受け、同条1項で財産権の保障を明記する一方、2項で「公共の福祉に適合するように法律で定める」として財産権の社会的制約を認めている。
解説
]憲法29条1項の「財産権の保障」は、自然権的な財産不可侵思想よりも、近代憲法における財産権保障の歴史的経緯に基づいて理解すべきとされる。学説上は、①法律で保護された財産権のみを保障するという「法律保護説」と、②私有財産制度自体を保障する「制度的保障説」がある。現在の通説は後者であり、私有財産制度を前提に個々の財産権を人権として保障する立場をとる。
この制度的保障説にも、生産手段の私有を資本主義体制と同義とみる立場と、人間の価値ある生活に必要な財産の使用・収益の自由を中核とする立場とがある。後者によれば、一定の社会化や国有化も正当な補償のもとで可能とされる。
憲法29条2項は、財産権が「公共の福祉」に基づく制約を受けることを明示する。この制約は、他者の権利保護のための「消極目的規制」と、社会政策上の「積極目的規制」に分けて理解されるが、判例(森林法共有林事件)は明確な区別をせず、立法目的と手段の合理性を基準に合憲性を判断した。また、条例による財産権制限も、地域特性に基づく合理的範囲であれば認められるとされる。
憲法29条3項は、私有財産を公共のために用いる場合に「正当な補償」を求めており、特別の犠牲を強いられた場合には補償が必要とされる。補償の範囲については、「完全補償説」と「相当補償説」が対立するが、最高裁は農地改革事件で相当補償説をとり、土地収用法の事例では完全補償説を採用した。一般的には、公共の利益と個人の財産権のバランスを保つため、原則として完全補償が妥当とされる。
関連判例
]- 農地改革事件(最高裁判所大法廷判決 昭和28年12月23日)
- 宅地買収計画取消請求(最高裁判例 昭和29年1月22日)
- 第三者所有物没収事件(最高裁判所大法廷判決 昭和37年11月28日)憲法31条
- 奈良県ため池条例事件(最高裁判所大法廷判決 昭和38年6月26日)憲法31条、憲法94条
- 河川附近地制限令違反事件(最高裁判所大法廷判決 昭和43年11月27日)
- 森林法共有林事件(最高裁判所大法廷判決 昭和62年4月22日)民法256条1項、民法258条、森林法186条
- 所有権移転登記手続等請求事件(最高裁判例 平成21年4月23日)b:建物の区分所有等に関する法律第70条
脚注
]参考文献
]- 東京法律研究会『大日本六法全書』井上一書堂、1906年(明治39年) エラー: 日付が正しく記入されていません。(説明)。
- 憲法入門 〔第3版〕大沢秀介 発行2003年10月10日
- エッセンス憲法 〔新版〕中村英樹 井上亜紀 相澤直子 編 発行2024年1月15日
関連項目
]- 私的所有権絶対の原則
- 損失補償
- プログラム規定説
- 国家賠償法
- 土地収用法
- 成田空港問題
- 成田空港予定地の代執行
- 日本国憲法の条文
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